【彼女は頭が悪いから】姫野カオルコ、読書感想文

実際に起こった事件を基に作られたフェイクドキュメンタリー「彼女は頭が悪いから」の読書感想文と、この本を紹介したことで話題になった上野千鶴子さんの東京大学学部入学式の祝辞についての話です。

こんばんは、はたのんです。このブログは、アスペルガー症候群はたのんママが、発達凸凹のある息子(自閉症スペクトラム)といっしょに成長する記録です。

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 【彼女は頭が悪いから】姫野カオルコ、読書感想文 


きょうは、姫野カオルコさんの「彼女は頭が悪いから」を紹介します。

「2025 文春文庫 秋100ベストセレクション」に選ばれた1冊です。

この本は、実際に起こった事件を基に作られたフェイクドキュメンタリーというジャンルの物語です。

東大生集団猥褻事件で世間から非難されたのは 被害者の美咲だった……。
引用:「2025 文春文庫 秋100ベストセレクション」ホームページ紹介文より

公式に発表されているあらすじにもある通り、被害者であるはずの美咲さんが、詳しく事件の背景を知らないネットの第三者たちから、「東大生の人生をめちゃくちゃにした勘違い女」として責められ追い詰められていく物語です。

ですが、物語の大部分は、それに至る過程、彼女やその周辺の人物の性格を作り上げていった過去の出来事についての振り返りです。

いくつか印象的なエピソードがあるなかで、特に印象に残った言葉があります。

「自分にはなんの取り柄もないみたいなことを口にしちゃいかんと。そう思うことは、そりゃあるよ。まともな人間なら。そいけど思っても口に出したらいかん。口に出すと、出したときに魂が宿って、ほんとにそうなるから」
引用:「彼女は頭が悪いから」姫野カオルコ(文藝春秋) 33ページ

557ページあるなかで、きわめて初期の段階で登場する言葉です。日常のなかで、サラッと流されていく言葉なのですけれども、印象に残りました。

この文章に書いてあることは、最後まで彼女の行動の基本になっている性格が表現されたものだと思いました。自分に自信を持って生きている人は気づきもしない感情を持っている人物であるという視点です。

この物語の登場する東大生は、自分たちより劣っている人たちには何をしても良いと考えていると読者にイメージさせる言動があります。タイトルにもあるように、頭の悪い人たちの気持ちなど考える価値も無いというような。

それから、最後の文章も印象に残りました。

「巣鴨の飲み会で、なんで、あの子、あんなふうに泣いたのかな」
つばさは、わからなかった。
引用:「彼女は頭が悪いから」姫野カオルコ(文藝春秋) 544ページ

唐突に区切られた最後の文からは「頭が悪いのは誰ですか?」という、作者から読者への皮肉めいた問いかけを感じました。

頭の良さには、いろいろなものさしがありますよね。いろいろ揉めて話が終わるなかで、この言葉で終わらせるっていうのが、興味深いなと思いました。

本を読んでいるうちに、読んだことがないはずなのに既視感がありました。最後に「あとがき」を読んで(あれか!)と思い出したことがあります。

この本は、平成の終わりに話題になった 上野 千鶴子 さんによる、東京大学学部入学式の祝辞で紹介された物語です。

そのあとには、このような話が続きました。

あなたたちはがんばれば報われる、と思ってここまで来たはずです。(中略)

がんばったら報われるとあなたがたが思えることそのものが、あなたがたの努力の成果ではなく、環境のおかげだったこと忘れないようにしてください。

あなたたちが今日「がんばったら報われる」と思えるのは、これまであなたたちの周囲の環境が、あなたたちを励まし、背を押し、手を持ってひきあげ、やりとげたことを評価してほめてくれたからこそです。

世の中には、がんばっても報われないひと、がんばろうにもがんばれないひと、がんばりすぎて心と体をこわしたひと…たちがいます。

がんばる前から、「しょせんおまえなんか」「どうせわたしなんて」とがんばる意欲をくじかれるひとたちもいます。

あなたたちのがんばりを、どうぞ自分が勝ち抜くためだけに使わないでください。

恵まれた環境と恵まれた能力とを、恵まれないひとびとを貶めるためにではなく、そういうひとびとを助けるために使ってください。

そして強がらず、自分の弱さを認め、支え合って生きてください。

引用:「平成31年度東京大学学部入学式 祝辞」上野千鶴子

「彼女は頭が悪いから」を読んでから、改めて上野千鶴子さんの祝辞を読むと、より深く心に染みるものがありました。

東京大学のホームページにて全文が公開されていますので、興味がある方は読んでみてください。

さて、姫野カオルコさんの「彼女は頭が悪いから」は、新聞に書いてある格差社会、男尊女卑、地域格差、スクールカースト、貧困などの社会問題を、物語にしたような小説でした。

娯楽として読む小説としては重苦しく、読んだあとにすっきりした気持ちになるものではありませんでしたが、学びのある本でした。

ほな、また(・ω・) よしなにー。

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